言熟文源録【ことば紀行】

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【時代を観察する】なかにし礼『戦場のニーナ』(講談社文庫) #32

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どーも、ふぎとです。
今日はなかにし礼『戦場のニーナ』を紹介するよ。

戦場のニーナ (講談社文庫)

戦場のニーナ (講談社文庫)

 

 


作品紹介


 最近、ロシアに出会うことが多い。というのも、書店
でパッと手に取った本がロシアやソ連が絡む小説が多い
のだ。先日紹介した『オリガ・モリソヴナの反語法』し
かり、今回の『戦場のニーナ』しかり。そもそもぼくは
(外国人がサムライに憧れるように)ロシアにたいしてど
こか憧憬の念を感じているようなところがあるのだけれ
ど、そうした思いが「ロシア小説」を選ばせるのかもし
れない。
 さて、この『戦場のニーナ』だが、これはざっくり言
ってしまえば「戦場でソ連軍に拾われた女性がルーツを
探る」お話だ。女性の名前はニーナ・フロンティンスカ
ヤ。ロシア語でまさしく「戦場のニーナ」という意味の
名だ。ルーツの手がかりとなるのは、手もとに残された
幼いころの写真1枚だけ。それを見ると、どうも日本人
のような着物を着せられているのだが、彼女にはそれで
自分が日本人であるのか自信がない。日本語も知らず、
両親の顔も思い出せないからだ。彼女が覚えているのは、
ロシアで暮らすようになってからの記憶、そして少女に
なって恋したユダヤ人、ダヴィッドだけだ。
 そうして何の進展もないままに、彼女はウラル山脈
側の街、エカテリンブルクで60歳を生きていた。そんな
折、彼女の友人アンナが得た情報から、ニーナはエカテ
リンブルクを訪れた日本人、フクシマとの面会を果たす。
この出会いが鍵となって、彼女のルーツへの扉は開いて
ゆく...。
 筋書きとしてはこんな感じの話なのだが、ぼくがここ
で言っておきたいのは、本書が綿密な取材と資料蒐集に
よって練り上げられた力作だということだ。作家であり、
かつて外務省でロシア外交のスペシャリストとして活躍
していた佐藤優氏が寄せる解説が、またひとつ箔をつけ
ている。著者のなかにし礼氏は1938年、満州の生まれ。
若い頃は作詞家として日本レコード大賞をはじめ、多く
の賞を飛ぶ鳥を落とす勢いでとりまくった。「恋のフー
ガ」「天使の誘惑」など多くのヒット曲を紡ぎだした。
シャンソンの訳詩にも精力的に取り組んだ。立教大学
学中から始めた訳詩は1964年、27歳になろうかという頃
に1000作を越えた。壮年期から作家活動も開始し、2007
年に刊行された本作では、著者の「時代の観察者」とし
ての目が大いに光っている。
 ソ連こそ崩壊したものの、ロシアはいまも大国として、
国際的に無視できない存在感を放っている。ぼくとして
は、本書によってまたさらに(佐藤優氏の表現を借りれば)
大国の内在論理を肌に感じることができた。「ロシアなん
て」という向きもあるだろうが、是非、読まれたい。


この本をオススメしたい人


・ロシアに興味がある人
・戦争にまつわる物語を探している人

 

戦場のニーナ (講談社文庫)

戦場のニーナ (講談社文庫)

 

 


ではでは今日はこの辺で。ふぎとでした。