【負を転がしてくれる鹿】黒木渚『壁の鹿』(講談社文庫) #17
どーも、ふぎとです。
今日は黒木渚『壁の鹿』を紹介するよ。
作品紹介
鹿の剥製が最初に話した言葉は、「まったく、理解不
能です」というものだった。
高校二年の冬、あの懐かしい書斎の空気がひどく乾い
たのを覚えている。
壁に掛けられていた鹿の首が突然話しかけてきたのだ。
柔らかな青年の声で。
自分で言うのも憚られるのだが、ぼくはなかなか自分
が背負いこんでいる悩みを相談できない質だ。お人好し
と言われればそこまでなのだが、これが後々どう響くか、
少し気にしていたりする。そんな時に、「自分だけの、
気兼ねなく話せる相棒」がいてくれたらと思っていた矢
先、本作で喋る鹿たちに出会った。
ここに登場する人物たちは、クラスメートとのズレ、
肉親との不和など各様に「負」を抱えている。鹿たちは
まるで彼らのアトリビュートのように、彼らに寄り添い、
彼らが背負った負を別のところへと軽やかに転がしてゆ
く。時には、それが「望ましい結果」につながらなかっ
たとしても。
いま、現実の日本はコロナの影響で異様な空気に包ま
れている。自宅で鹿と話すのも、悪くないかもしれない。
著者紹介:黒木渚
黒木渚は宮城県の生まれ。ぼくは学生の頃から、ミュ
ージシャンとしての彼女は知っていた。アルバムも『黒
キ渚』や『自由律』を中心に、一通り聴いた。だが、大
学では文学を研究し、大学院まで進んだことは知らなか
った。今年も早々、ニューアルバムのリリースにともな
うワンマンツアー敢行など、パワフルに活動を展開して
いる。
この本をオススメしたい人
・ミュージシャンとしての黒木渚が好きな人
・人に言えないような悩みを抱えている人
ではでは今日はこの辺で。ふぎとでした。