言熟文源録【ことば紀行】

ふっくら熟れたことばの実。そのタネをみつめる旅に、出かけましょう。

【生きたロボットを止める?】森博嗣『魔法の色を知っているか?』(講談社タイガ) #28


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どーも、ふぎとです。
今日は森博嗣『魔法の色を知っているか?』を紹介するよ。

 


作品紹介


 最近のAI技術の発展はめざましい。グーグルなどは、
自然に会話ができるAI」をディープラーニングの技

術を生かして開発したらしい。
 一方で、医療も日々進歩している。去年の秋口に、

ips細胞を用いた角膜移植のニュースが巷間を賑わせた。

 では仮に、AI技術が超進化して「呼吸するロボット」
が普及するとしよう。そんな時に、人間とロボットとの
違いはどこに見出だせるのだろう?
 また、体内の細胞を少しずつ人口細胞に交換すること
で、半永久的に生き永らえる技術を人類が獲得するとし
よう。この時、細胞を取り換える「副作用」は起こらな
いのだろうか?たとえば、子どもが生まれなくなるとい
うような...
 本書はそんな、技術が限界まで進歩した世界を舞台に
している。人間そっくりの「呼吸するロボット」ウォー
カロンが人間のように生活し、超医療により寿命を飛躍
的に伸ばした人類が子どもを産めなくなった世界だ。
 主人公のハギリは、ウォーカロンと人間との識別方法
を研究している科学者だ。彼は「人口生体技術に関する
シンポジウム」に出席するため、警護のウグイとアネバ
ネと共にチベットを訪れる。ところが、会場の警備にあ
たっていた現地軍(ウォーカロン部隊)によるクーデター
に巻き込まれてしまう。
 ここから事態は尋常ならざるカギリへ向かっていくの

だが、そんな折読者は会場の近くに「子どもが生まれる
集落」があるらしいこと、クーデターを起こしたウォー
カロンたちは、彼らを作ったメーカーの意向に従ってい
るらしいこと、その意向というのがどうも「子どもを産
める集落の人間サンプル収集」であるらしいことを仄め
かされる。そして、100年以上前にウォーカロンのアイ
デアを具現化した天才、マガタ・シキは「ウォーカロン
の強制停止コマンド」をも用意していたであろうことも-。


「魔法の色を知っているのか?」
濡れた喉から出る発声。
泡立ち濁った声。
地獄の底から浮かび上がってくるような、
おそろしい声だった。


人間とウォーカロンの違い、それは魔法の色を知ってい
るか、どうか...。


著者紹介:森博嗣


 小説家。愛知県生まれ。名古屋大学大学院工学研究科
修了後、三重大学助手を経て、名古屋大学助教授に。19
95年(平成7)、ミステリー誌『メフィスト』に「冷た
い密室と博士たち」の原稿を応募、編集者に注目される。
続いて「笑わない数学者」を1週間で書き上げ投稿。さら
に3作目の「詩的私的ジャック」も書き上げたが、編集者
の意向で4作目となる「すべてがFになる」(1996)を第
1回メフィスト賞受賞作として刊行することになる。N大
学工学部助教犀川創平(さいかわそうへい)と同学生西
之園萌絵(にしのそのもえ)のコンビで展開されるこのSM
(主人公2人の名前の頭文字)シリーズは、前述した4作に
加え『封印再度』『幻惑の死と使途』(1997)、『今はも
うない』『夏のレプリカ』『数奇にして模型』と以下続々
と刊行され第十作の『有限と微小のパン』(いずれも1998)
で完結をみる。このシリーズは理系ミステリーと呼ばれる。
その理由は、一つには大学の研究室が舞台となり、理系の
研究者や学生が多く登場するからであるが、あくまでそれ
は表面的な事柄にすぎない。「理系」の真の意味は、徹底
した理系思考で事件の謎を解き明かしていくことにある。
それゆえ、ときに事件を彩るはずの人間ドラマや、犯人の
動機には何の興味も示されない場合がある。探偵役はただ
ひたすら「いかなる条件が揃えばこの犯行は可能であった
か」を論理的に考え、事件の犯人はこの人物でしかあり得
ないという結論(解答)を引き出すのである。その際に、
従来のミステリーでは重要視されていた犯人の動機に関し
ては、驚くほど無関心となっている。というより、こんな
動機ではたして犯行に及ぶだろうかと思わせるものもある。


 しかし、理系ミステリーは人間の心理部分を除いた、物
理的な犯罪の構成要因だけを問題とする。これは作者の資
質ということもあるだろう。彼が初めて読んだミステリー
エラリー・クイーンの『Xの悲劇』だったそうだが、こ
の本を読んで当時中学生だった彼は、「どうして謎を謎の
ままにして話が進んでいくのか」「(探偵が)どうして他
人の行動をそこまで突き詰めて考えられるのだろう」と真
剣に悩んだのだという。


 99年には『黒猫の三角』を筆頭とする私立探偵保呂草潤
平(ほろくさじゅんぺい)のシリーズを開始。また初のノ
ン・シリーズ『そして二人だけになった』(1999)も刊行。
執筆ペースの異常な速さも人気の要因となっている。
(小学館日本大百科全書』より)


この本をオススメしたい人


・「面白い話」に心踊らせたい人
・短いが読みごたえのある小説が好きな人
・人間とAIについて深く考えたい人

 

 


ではでは今日はこの辺で。ふぎとでした。