言熟文源録【ことば紀行】

ふっくら熟れたことばの実。そのタネをみつめる旅に、出かけましょう。

2020-01-01から1年間の記事一覧

メアリアン・ウルフ『プルーストとイカ』(インターシフト) #49

この記事から学べる事 現代に通じるソクラテスの批判 『プルーストとイカ』の要旨 文字が読めることの「異常さ」 文字が読めるという神秘 初めて文字が読めることに気づいたのはいつだっただろうか。ぼくにはそのあたりの記憶があまりない。そもそも幼少期の…

【ピリ辛の沼】水野仁輔『スパイスカレー事典』(パイ インターナショナル) #48

料理が好きだ。平日の夜、仕事から疲れて帰ってきたときも一品はつくる。ぼくにとってはそれが気分転換のナイトルーティーンのようになっている。 こうまで料理に熱をあげることになったきっかけは、参加しているオンラインサロンの「ごはん部」に入ったこと…

『本―TAKEO PAPER SHOW 2011』(平凡社) #47

9月下旬の4連休、ぽつぽつと雨が降ってきそうな曇りの日に、JR八王子から京王八王子へと向かう道沿いのBOOKOFFで気になる本を見つけた。「本」の名を冠した本。その浩瀚さ、装丁の独特さに惹かれてふと手に取った。 表紙にはこうある。 紙に定着された「物体…

【肉はいらない?】クリストファー・E・フォース『肥満と脂肪の文化誌』(東京堂出版) #46

この記事から学べること 「脂肪・肥満に対する嫌悪感」のルーツ 近代科学が引き起こした問題 昨今注目される「オルトレキシア」とは これまでの麺カタコッテリの話をしよう 平成26年度厚生労働省調査によると 我が国の脂質異常症の総患者数 206万人 糖尿病 …

【現実 VS 幻想】フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』 #45

この記事から学べること 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』はどんな小説か 小説を通してディックが考えたかったことは何か ディックが晩年惹かれた「クムラン教団」とは 死の灰が降り注ぐ 第3次世界大戦後、地球。惑星全体が生命を遺伝子レベルで汚染…

【哲学のどんでん返し】ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』(岩波文庫) #44

この記事から学べること ウィトゲンシュタインの思想 「言語論的転回」とは 「言語ゲーム」とは 自宅の「岩波空間」 いまの自宅には、高さ180cm、幅90cmの本棚が2架ある。その内の1つの最上段が「岩波空間」になっていて、学生のころ背伸びして買った『笑…

【創造性を鍛える】ジョン・J・レイティ『脳を鍛えるには運動しかない!』(NHK出版) #43

この記事から学べること 記憶力は鍛えられる 運動が記憶の効率を高める どんな運動をすれば良いか 「記憶」の仕組みを知りたい 阪急六甲駅から大学までの長い坂を20分以上かけて毎日登っていた頃、池谷裕二『記憶力を強くする』(講談社ブルーバックス)を読ん…

【行動経済学入門の入門】ダン・アリエリー『予想通りに不合理』(ハヤカワノンフィクション文庫) #42

「不合理な人間」を科学する行動経済学の取っ掛かりにふさわしい1冊を、行動経済学の歴史的な流れを添えて紹介。

【コロナと仏性】幸田露伴『風流仏』 #41

この記事から学べること 『風流仏』とはどんな物語か 露伴が表現したかった思想 幸田露伴の生い立ち はかない風流・永遠の仏性 明治文学の大家、幸田露伴の出世作だ。尾崎紅葉『二人比丘尼色懺悔』に続く形で「新著百種」第5号として発刊された。1889年のこ…

【母を恋うる】泉鏡花『高野聖』(角川文庫) #40

この記事から学べること 泉鏡花とはどんな人物か 尾崎紅葉との関係 『高野聖』が出版されたころの社会情勢 紅葉の愛弟子 先週は尾崎紅葉を紹介した。今回取り上げる泉鏡花は、その紅葉の愛弟子だ。小栗風葉、徳田秋声、柳川春葉とともに「紅葉の四天王」と称…

【26歳の代表作】尾崎紅葉『三人妻』(岩波文庫) #39

この記事から学べること 尾崎紅葉の生涯 『三人妻』はどんな作品か 作家としての紅葉の特性 最後の江戸人 日本が近代国家としてのスタートを切る直前の1867年、 江戸の芝中門前2丁目に生まれた男があった。名は徳太 郎。のちに文学結社「硯友社」を創立し、…

【「情報選別力」を鍛える】瀬木比呂志『リベラルアーツの学び方』(ディスカヴァー21) #38

この記事から学べること この本の著者、瀬木氏はどういう人物か リベラルアーツ(教養)を身につけるための考え方 リベラルアーツの由来 「構造的」に見る 刺さった。「リベラルアーツ」の重要性、そしてそれをどう学び、活かすかというところのエッセンスをこ…

【現代小説の起源】二葉亭四迷『浮雲』(岩波文庫) #37

この記事から学べる事 明治の文豪、二葉亭四迷の生い立ち 四迷が育ったころの社会情勢 四迷の「芸術観」 危険な読書 先日ちょっとした縁があり、昭和44年に集英社から刊行された『日本文学全集』を我が家に引き受けた。全巻88冊がずらっと居並ぶ姿が圧巻だ。…

文字と会計/原始の信仰【長い歴史の短い一端 #4】

この「ながたん」シリーズでは、ゆっくりと「ルカ」の出現から農耕文化の定着までを追ってきた。今回は、「会計と文字」の話をしよう。文字が誕生する要因として、「会計」があったという話だ。 歴史上、文字が初めて生まれるのはメソポタミアのシュメール文…

こちら/あちらの新感覚【長い歴史の短い一端 #3】

さて、サピエンスが乳幼児の扶養のため社会性を高めていくと同時に、それとは相反するようにも見える事態も起こっていく。道具の高度化により、人間同士の殺し合いがひときわ目立つようになったのだ。ムラとムラとの衝突だ。これは個人的な感想だが、「内部…

P-T境界とサピエンスの台頭【長い歴史の短い一端 #2】

さて、前回は「ルカ」と呼ばれる原始生命の誕生から、カンブリア紀の生物多様化までざっと見てきた。今回はその後、約6億年前から話を始めよう。 この約6億年前というのは、生物にとって大きなターニングポイントの一つだ。光合成の作用によって大気中の酸…

ルカ・利己的遺伝子・カンブリア爆発【長い歴史の短い一端 #1】

ロングラン企画のスタートだ。題して「長い歴史の短い一端」。何を書くか、大まかな方針は決まっているけれど、どのくらいの「連載」になるかは書いている本人にもわからない。1記事ごとになるべく独立させて書く心算だから、気長に付き合ってもらえればと…

【心をタフにする読書法】佐藤優『功利主義者の読書術』(新潮文庫) #36

読書には、大きな罠がある。特に、読書家といわれる人がその罠に落ちやすい。読書はいわば「他人の頭で考えること」である。従って、たくさんの本を読むうちに、自分の頭で考えなくなってしまう危険性がある。 冒頭からのすっぱ抜きだ。本を無批判に読むのは…

【19世紀のクラブシーン】高野史緖『ムジカ・マキーナ』(ハヤカワ文庫) #35

ようこそ、ふぎと屋へ。今日は高野史緒『ムジカ・マキーナ』を紹介しよう。 ムジカ・マキーナ (ハヤカワ文庫JA) 作者:史緒, 高野 発売日: 2002/05/10 メディア: 文庫 無冠のデビュー作 この作品でデビューしろと言われたところで、たかが一応募者に過ぎない…

選書ブロガーが選ぶ!2020年上半期ベスト3

どーも、「選書ブロガー」のふぎとです!普段の記事は常体(だ・である調)ですが、今回は敬体(です・ます調)で書きたいと思います。 さてさて、今年の初めから「選書ブロガー」として筆をとってきて、色んなジャンルの本を読んで、紹介してきたわけなのですが…

【ドライに紡ぐ物語】スタインベック『ハツカネズミと人間』(新潮文庫) #34

ようこそ、ふぎと屋へ。今日はスタインベック『ハツカネズミと人間』を仕入れたよ。ゆるりとくつろぎながら聞いていってくれ。 ハツカネズミと人間 (新潮文庫) 作者:ジョン スタインベック 発売日: 1994/08/10 メディア: 文庫 戦争と牧歌 手始めに、1937年に…

挑戦者の文学【アメリカ文学史4】

ようこそふぎと屋へ。今夜も来てくれてありがとう。きょうはアメリカ文学史の中でも、第2次大戦後の様相を語っていこうとおもう。お茶でも飲みながら、ゆっくり聞いていっておくれ。 若者とマイノリティの台頭 さて、世界を巻き込んだ2度目の大戦は1945年…

成長に抗議する文学【アメリカ文学篇3】

ようこそふぎと屋へ。今回もアメリカ文学の続きを紹介していこう。いよいよ20世紀に突入だ。 成長と反動 前回は、1890年代ころになって「自然主義」がアメリカ文学界でブームになったというような話をした。その自然主義文学の一翼を担う作家としてセオドア…

アメリカンルネサンスと南北戦争【アメリカ文学篇2】

やあ、ようこそふぎと屋へ。今回もアメリカ文学篇をやっていこう。今日は「アメリカン・ルネサンス」前夜 からだ。 「アメリカン・ルネサンス」の到来 さて、前回はアメリカ植民の草創期から独立宣言までをざっと眺めてきた。今回はしだいに社会が安定してき…

植民の父と独立宣言【アメリカ文学篇1】

やあ、ようこそ「ふぎと屋」へ。今回は今までとは少し趣向を変えて、「アメリカ文学」を上から眺めてみることにしよう。社会の動きとも絡めながらね。じゃあ、さっそくいこう。まずは「アメリカ」の成り立ちからだ。 アメリカのなりたちとその「文学」 そも…

【乾坤一擲の海洋文学】ヘミングウェイ『老人と海』 #33

ようこそ、「ふぎと屋」へ。きょうはアメリカの海洋文学を仕入れたよ。ひとつ、付き合ってもらっていいかい?…そうだなあ、今回はエドムンド・ウィルソンの話から始めようか。 批評家E.ウィルソン ウィルソンってのはアメリカの批評家さ。法律家の息子として…

【構造を闡明する】九鬼周造『「いき」の構造』(講談社学術文庫) #32

文化は脱ぎすてることはできない(エドワード・ホール『かくれた次元』) 「いき」の構造 (講談社学術文庫) 作者:九鬼 周造,藤田 正勝 発売日: 2003/12/11 メディア: 文庫 今夜は「いき」を紹介したい。九鬼周造の著作である。彼が「いき」を書くまでのいき…

【時代を観察する】なかにし礼『戦場のニーナ』(講談社文庫) #32

どーも、ふぎとです。今日はなかにし礼『戦場のニーナ』を紹介するよ。 戦場のニーナ (講談社文庫) 作者:なかにし礼 発売日: 2019/12/20 メディア: Kindle版 作品紹介 最近、ロシアに出会うことが多い。というのも、書店でパッと手に取った本がロシアやソ連…

【第3の態と責任】國分功一朗『中動態の世界 意志と責任の考古学』(医学書院)#31

どーも、ふぎとです。今日は國分功一郎『中動態の世界』を紹介するよ。 中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) 作者:國分功一郎 発売日: 2017/03/27 メディア: 単行本 作品紹介 「能動的に動け」「主体的に考えよ」。ビジネス書で目にし…

【創造的な模倣】世阿弥『風姿花伝』(岩波文庫) #30

どーも、ふぎとです。今日は世阿弥『風姿花伝』(岩波文庫)を紹介するよ。 風姿花伝 (岩波文庫) 作者:世阿弥 発売日: 1958/10/25 メディア: 文庫 作品紹介 どうやら現代社会というところは、「創造的人材」が多く求められる場であるらしい。「創造的な人材の…