言熟文源録【ことば紀行】

ふっくら熟れたことばの実。そのタネをみつめる旅に、出かけましょう。

【"感じかた"の提案】吉本ばなな『キッチン』(新潮文庫) #13


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どーも、ふぎとです。
今日は吉本ばなな『キッチン』を紹介するよ。

 

キッチン (新潮文庫)

キッチン (新潮文庫)

 


作品紹介


 今は昨日よりも少し楽に息ができる。また息もできな
い孤独な夜が来るに違いないことは確かに私をうんざり
させる。このくりかえしが人生だと思うとぞっとしてし
まう。


 この本に出会ったのは1年ほど前のことだ。もっとも、
吉本ばなな」の名前はもっと前から知っていた。人気
のある(らしい)小説家として、そして「戦後思想の巨人」
吉本隆明の娘として-。だが、この人の本は書店で見か
けても、なかなか手がのびずにいた。なんと言おうか、
いちど本を開くと「ばなな世界」にからめとられてしま
うような、そういう予感があった。それを読む気になっ
たのは、友人Yが熱心に勧めてくれたからだ。「仲がい
い人の勧めてくれる本はなるべく読む」と決めている僕
は、それで観念した。「世界」に没入する覚悟を決めて
じっくりと読んだ。

 面白かった。小説にはたいてい「主題」があるものだ
が、この本では「方法」こそが提示されている。つまり
「感じかた」の提案こそが「主題」なのだ。

 


 様々に微妙な感じ方を通して、この世の美しさをただ
ただ描きとめていきたい、いつでも私のテーマはそれだ
けだ。(作者あとがきより)


 また、作品全体をズドンと貫く信念も示唆に富む。ひ
とつ、本編から引用しよう。


 おもしろおかしく生きていく(...)ためには甘えをなく
し、傲慢さを自覚して、冷静さを身につけた方がいい。


...と、ここまで色々書いてきたが、ようするにこの作家
は、読み手をずるずると引きこんでしまう魅力にあふれ
た書き手なのだ。少なくともぼくはそう実感した。もう
一度、もう一度と、しっかりかみ砕くように読み返した
い。なるべくキリリと冷ややかな夜にー。


 それでも、突然息が楽になる瞬間が確実にあるという
ことのすごさが私をときめかせる。度々、ときめかせる。


著者紹介:吉本ばなな


 小説家。東京都生まれ。本名吉本真秀子(まほこ)。
日本大学芸術学部文芸学科卒業。『言語にとって美とは
何か』『共同幻想論』『ハイ・イメージ論』で知られる
思想家吉本隆明の次女として生まれる。姉は『プロジェ
クト魔王[アルドラ]』(1992~98)の漫画家ハルノ
宵子(よいこ)。幼いころから作家を志す。死や愛とい
ったモチーフから、生きることの淋しさや美しさを自然
に描き出すその作風は多くの人々の心を打つものがある。
1986年度(昭和61)大学卒業制作「ムーンライト・シ
ャドウ」は芸術学部長賞を受賞した。
 1987年、吉本ばななの筆名で書いた小説「キッチン」
海燕新人文学賞受賞。唯一の肉親であった祖母を亡く
した主人公の、突然で奇妙な、青年とその母親との同居
生活を通して生と死をみつめたこの物語で、文壇にデビ
ュー。その繊細かつ透明で力強さも持ち合わせた文体と、
日常のまっすぐな描き方で大きく反響をよび、ベストセ
ラーとなる。翌88年には同作で泉鏡花文学賞を受賞。日
本国内にとどまらず、イタリアやアメリカなどでも高く
評価された。その後、『哀しい予感』(1988)、恋愛の
光と影を 切なくうたった『うたかた/サンクチュアリ
(1988、芸術選奨文部大臣新人賞)、夏の海辺の町での
日々を、つぐみという印象的な少女をとりまく物語とと
もにつづった『TUGUMI』(1989、山本周五郎賞)、生
きるなかでの閉塞感を「夜」に投影した三部作からなる
『白河夜船』(1989)、『N・P』(1990)、初の短編
集『とかげ』(1993)と次々に作品を発表し、94年(平
成6)1月に初期の集大成ともいえる『アムリタ』(紫式
部賞)を刊行した。その後も『マリカの永い夜/バリ夢
日記』(1994)、『SLY』『ハチ公最後の恋人』(199
6)、『ハネムーン』(1997)、『ハードボイルド/ハ
ードラック』(1999)、『不倫と南米』(2000、ドゥマ
文学賞)、『体は全部知っている』(2000)、『虹』
(2002)と、一作ごとに作家として着実な成長を遂げて
いる。また、「オカルト」「ラブ」「デス」「ライフ」
のテーマごとに、4巻から成る『吉本ばなな自選選集』
(2000~2001)も刊行された。


 諸作品は「キッチン」をはじめ、海外三十数か国で翻
訳、出版されている。イタリアにおいては、これまでス
カンノ賞(1993)、 フェンディッシメ文学賞「Under 
35」(1996)、マスケラダルジェント賞文学部門賞(1
999)などを受賞しており、世界で広く日常的に作品を
読まれる初の日本人作家だといえる。その著作活動は小
説を中心としているが、エッセイ集や対談集なども多数
出版されている。また、各分野のアーティストとの交友
関係も広く、2000年には、現代美術家奈良美智(よし
とも)(1959― )とのコラボレーション作品『ひな菊
の人生』も発表している。出す作品がすべてベストセラ
ーとなる現在数少ない作家の一人である。生きることに
対しての真摯な姿勢をくずさない彼女の作品は普遍性を
帯びており、それが多くの人の心に届いて共感をよび、
新しい世代に読み継がれ、愛される所以(ゆえん)でも
ある。2002年8月、『王国 その1 アンドロメダ・ハ
イツ』より、「吉本ばなな」から現名に改める。
(小学館日本大百科全書』より)


この本をオススメしたい人


・最近、閉塞感を感じている人
・スカッとする小説が読みたい人
・チャレンジする勇気が欲しい人

 

キッチン (新潮文庫)

キッチン (新潮文庫)

 

 


ではでは今日はこの辺で。ふぎとでした。